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サカナクション「アダプト」を聴きながら思ったことを文字にしたやつ

 先日リリースされたサカナクションの新譜「アダプト」を聴きながら思ったこと、思い出したことを文字にしました。Spotifyでは山口一郎の解説を挟みながら聴けるプレイリストがあり、ここで語られたこともソースに書いていくので未聴の方はこちらもぜひ。

 

 

 

 

 

①塔

 1曲目からアレなんだけど、特にこれといった感想はない…笑 単体のインストというよりはアルバムそしてプロジェクト全体のイントロダクション的な立ち位置の曲なので、この曲単体で語るような感じではないかな。

 とはいえ、この曲はこの前まで公演していた「アダプト TOUR」のオープニングで使用した音を再構築してできたものらしく、1曲目にあるおかげでとても印象的だったツアーそのものを想起できる。視覚的な象徴だった"アダプトタワー"をアルバムにも落とし込んだかたちで、ライブの体験・記憶とアルバム(今作)を自然に繋げてくれる。

 

 

②キャラバン

 初めて聴いたのは先の「アダプト TOUR」の武道館公演の配信だった。サカナクションはオリエンタルな雰囲気の曲は過去にもいくつかあるが、ここまで純度の高いオリエンタル路線はあまりなかったかもしれない。曲名や歌詞もイメージをそのまんま活かしたという感じだし。ゴダイゴや初期YMOとかの「大陸感」が感じられる。70年代後半あたりの時代感。くぐもったシンセブラスが高揚感を煽る。

 音源ではマイルドなグルーヴになっているが、ライブではもうちょっと16ビートが強調されたソリッドなグルーヴで演奏されていてかなーり良かった。同様に似たグルーヴの「マッチとピーナッツ」とかも音源よりライブでかなり映える印象がある。最近のサカナクションは邦ロックっぽくない曲を演奏している方が楽しそうに見える。

 

 

③月の椀

 こちらも武道館公演の配信で初めてフルを聴いたのだけど「これはサカナクションだなあ」っていうのが真っ先の感想だった。ギターとシンセの共存具合、オリエンタルなフレーズやメンバーのコーラスなど。サカナクションっぽい要素が丁寧に全部盛りされてる。かつすべてヤスリで角取りされてて赤ちゃんでも安心して聴ける感じ。この曲はアルバムのコンセプトすら発表されていない時期に車のCMとしてサビだけ作られてたが、タイアップとしてちゃんと張りきって作ったんだろうなーと想像できる。

 個人的な話をすると、Aメロで入っているストリングスのショット、あの音がフェチです。あとAメロのメロディがオフコースっぽいなー。

 

 

プラトー

 サンテFXのCMタイアップ曲。初めて聴いたのはそのプロモーションもかねたYouTube配信内のライブ演奏でなんだけど、「ここまでストレートなギターロックを今のサカナクションがやる必要があるのだろうか?20代前半くらいの若くて勢いのあるバンドが作るような曲だよなー」と思ってしまった。この編曲に関して山口一郎は上記のSpotifyの解説内で「CMタイアップだったから」とバッサリ言っていたので謎は解けたとして笑、こんな曲作るなんて若いなーとびっくりしたという話でした。

 解説でも触れられているけどこの曲は系譜としては「klee」「Aoi」などのポストパンクを下敷きにしたサカナクションらしいアッパーソングになる。このサウンドに山口一郎の詞を乗せたものはサカナクションの「発明」的なサウンドだと僕も思うし、こういう曲が度々あってもいいのかなー。最近の曲が熟達した演奏、編曲のものが多かったので逆に異彩を放っているように感じるのかもしれない。

 

 

⑤ショック!

 これも映画「ルパンの娘」や「アダプト TOUR」のプロモーション映像でサビだけ先行で聴いていたが、まさにショックだった(悪い方で)。周りのサカナ好きの人たちも一同に同じことを言っていたようなので僕だけの感覚ではなかったと思う。そんな訳で先行配信リリースの時はひやひやしながら再生したのだが、フルで頭から聴くと全然悪くないなーというのが率直な感想だった。

 曲としては「アイデンティティ」「モス」とかのトーキング・ヘッズ路線な曲。そして編曲にここまでがっつりホーンが入るのって初めてなのでは。ホーンアレンジは草刈さんと、星野源作品でお馴染みの武嶋聡さんらしい。この曲もライブでの演奏もかなーり良かった。ダンスだけは許容できないくらいダサいけど。

 

 

⑥エウリュノメー

 青山翔太郎さんも参加しているインスト曲。やっぱりアルバムにはインスト曲なくっちゃね。解説によると曲名はギリシャ神話の女神の名前だそうで、「混沌とした海原で秩序をもたらすまで一人で踊り続けた女神」らしいです。コロナ禍に対応しようとするこのプロジェクトの隠喩というか、願いを込めたかのようなタイトル。

 掴みづらい構成の曲だけど、鳴っている音や展開が常に変わり続ける様はまさに混沌を感じさせる。途中からマリンバ(のような音色)の印象的なフレーズが現れるが、消えてしまうことがありつつも最後まで鳴っているこの音が混沌の先へ導いてくれている、そんな気がしますね。ライブでどう演奏されるのでしょうか。

 

 

シャンディガフ

 先だって行われた「アダプト TOUR」でも演奏されていなかったのでアルバムで初めて聴いたのですが、びっくりしました(いい曲すぎて)。アルバム発売まで隠していたか。なあ一郎。完全に僕のフェチ山盛り大サービスしてくれただけなんだけど、頭一つ抜けて良い曲ですねこれは…。ゴスペル風なアレンジや展開の曲に敏感になっているのもあるんだけど、サカナクションがこういうのやってくれるとは。それにしても歌詞の「メスライオン」ってワードがすごいな。

 あと真っ先に「ミックスがサカナっぽくない!」と思ったんだけど、ボーカル以外の各楽器を左右に振ってて、サカナの音としては聴き慣れない変な音像になっている。山口一郎曰く「ミックスは『Hey Jude』のイメージ」らしく、よくあるthe Beatlesオマージュのミックスを踏襲したものだろう。サカナクションがこういうのやってくれるとは。

 でもやっぱ「あ、これサカナクションだ」とハッとするのがBメロや間奏でシンセを入れてくるところ。こういうアコースティックな雰囲気の曲にシンセらしい音色を入れるのは無理があるというか、入れない方が「丸い」アレンジなのに入れちゃうところがサカナクションがよく言うところの「良い違和感」を醸し出している。山口一郎曰くこの曲のコンセプトは「(混ざり合わないものを混ざり合わせて)ちょうどいい」らしく、曲名やバンドの音楽性にも通ずるこのテーマをシンセサイザーが分かり易く象徴している。

 そしてアウトロ。「ちょうどいい」のコンセプトに従うようにちょうどいいところでフェードアウトしていくけどもっと聴きたいよね。アウトロは長ければ長いほど良いからね…。くるりなら2分はアウトロやってる。これはライブで期待ですね。

 

 

⑧フレンドリー

 「アダプト TOUR」ではアンコール後の一番最後に演奏されていて、新曲群の中でもより印象的だった曲。曲名もカタカナで「フレンドリー」ってなんかいいよね。解説内で曲名について「右翼と左翼、その真ん中で『なかよく』」って言ってたのには一瞬「あ??」と思ったけど。

 サウンドについては特に触れられていなかったけど「忘れられないの」のようなAOR路線の曲。それにしてもこの曲のアレンジは歴代の中でもかなり捻りがなくシンプルなんじゃないか。別に手抜きと言いたいわけではなく、こういう主張が少ないオケだったり音数が少ない編曲だと歌や歌詞に耳が自然といくので狙ってやっているんだと思う。結果的に曲中で繰り返される「左」「右」「正しい」「正しくない」といった言葉が強く耳に残る。それに歌詞のテーマや内容を鑑みても音そのものの主張が強いのも変な感じがするしね。寄り添ったり、適度な距離感を保ったり、考えさせるような余白を残したものかもしれない。

 余談だけどサカナクションの音楽で山口一郎の歌や歌詞を抜いた時に次点で「サカナクション足らしめている」要素は草刈さんのベースだなとよく考えている。歌と張り合うくらい存在感があって記名性があるベースだと思う。

 

 

・総括

 今作「アダプト」は次作「アプライ」へと続くプロジェクトの途中で、フルアルバムを2枚に分けたイメージで山口一郎も語っている。今作の8曲でもタイアップがつくような曲やインスト曲もあり、サカナクションで言うところの"浅瀬""深海"にあたる要素は現時点でも出揃ってるなーと思った。「アプライ」が具体的にどういう様相になるのかはまだ知る由もないが、今作の手触りを発展させたり、"中層"的な曲で補填していくのかな。解説では「アプライ」と「アダプト」の中間にあたる作品のことも示唆していて、今年のツアーとか通してまたなんか作っていくのかな。ひとまずアルバムリリースできてよかったね!